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旅行医学 [旅行総論]

これまで自らの考える旅行道と旅行のノウハウについて書いてきましたが、今回は旅行医学認定医らしく旅行医学についての話題です。日本ではあまり馴染みのない言葉ですが、欧米では割とポピュラーな分野です。旅先で体調を崩した際、あなたはどうしますか?
日本の医療はWHOに費用対効果で世界一と認定されたことがあり、かつて視察に訪れた米のクリントン国務長官(当時は大統領夫人)が「アメリカでは医療従事者にここまで苦痛と奉仕を強いる医療制度は成り立たない」と感嘆の声を上げたそうです。日本では医師の前に座って「頭が痛い」と言えばすぐに診断がついて治って当たり前、自己負担額も一般人の日当以下が当たり前ですが、これは世界の非常識です。
インフォームド・コンセントと言う言葉があります。日本では「医師が患者に説明すること」という意味でとられ、患者の義務については一切触れられていませんが、本来インフォームド・コンセントには「主治医に自分の既往歴、内服薬、病状を正しく伝える患者の義務」という概念も含まれています。そしてそれができない場合、外国では医師が診療拒否をすることがあります。つまり医師の前で「headache」と言っても、既往歴、常用薬、病状を正しく説明できない場合、治療を受けられない可能性があるのです。しかも薬には一般名と商品名があり、通常の医療現場では商品名が用いられていますが、これは国ごとに違う名前だったりします。外国の医師に自分の内服薬を説明する際には一般名を英語スペルで伝え、何mgを1日何回に分けて内服しているかを伝えなければなりません。
また医療費そのものも日本よりも高額です。私が見聞きしたエピソードをいくつかご紹介しましょう。
・ローマで熱中症になり、救急外来で点滴を受けたいと言ったところ、ホテルの人から15万円かかるから止めたほうが良いと言われた。(知人の体験談)
・イタリアで脳梗塞を発症し、現地で治療を受けて日本に戻ってくるまでに500万円かかった。(私の勤める病院に入院してきた方の実例)
・アメリカでCTを撮ると50万円かかる。(よく耳にする話です)
・イギリスでサッチャー首相時代に低医療費政策を取り、医療費を対GNP費で現在の日本と同程度まで低く抑えた。これは先進国中最低水準であり、この結果救急外来の診察を最大72時間待ちになったり、がんの手術が半年待ちになったりした。(このためブレア首相時代に政策を改め、医療費を1.5倍に増やしました)
・カンボジアのアンコールワット近くの病院で働く医師の月給は500ドル。病院前で土木作業をする人の日当は1ドル。(私自身が現地ガイドから聞いた話です)
・ミャンマーで日本語ガイド(ミャンマー語、英語、日本語を話すエリート)と専用車、ドライバーをチャーターして1日市内観光する料金は80ドル。そのガイドから、私立病院で働く医師の月給は5000ドルだと聞いた。
・ペルーで専門医の診察を受け、スペイン語の診断書を1枚発行してもらうと110ドルかかった。物価水準は日本の半値以下であり、病院前では少女が1本30円のミネラルウォーターを売っていた。
・数年前にヨーロッパを熱波が襲った際、フランスで多くの老人が熱中症になった。しかし医師の多くは1ヶ月のバカンスに出かけていたため、結果として全国で1万人の死者を出した。(新聞にも載りました)
・日本の分娩費、虫垂炎の治療費は欧米の数分の1という水準であり、同等の医療設備が整った香港や中国本土の病院より安い。日本と同じく低医療費政策を打ち出すタイよりは高いが、タイではその結果医師が逃げ出して医療崩壊を招いている。(色々なソースが混じっていますが概ね間違っていないはずです)
これが世界の医療現場です。医師の診察を一度受けたら庶民の月収が飛んでいくという話も珍しくありませんが、私がこれまで渡航した国々の中で日本より安く、日本より優れた医療を受けられる国というのは正直思い浮かびません。
皆さんも海外旅行に行く際は、病気になったら主治医にきちんと説明して高額の医療費を支払わない限り治療を受けられないという事実をきちんとわきまえてください。主治医にきちんと説明できない方は前もって日本で英文診断書を用意しておくことをお勧めします。また海外の病院を受診すると高額の医療費がかかるため、自費であっても日本国内で抗生剤、解熱剤、下痢止めなどの常備薬を処方してもらっておいたほうが良いでしょう。これらの事例に対応するのが旅行医学認定医です。詳しくは日本旅行医学会のホームページを見てください。私の場合、抗生剤は主にニューキノロン系、ミノマイシン、フロモックスを使い分けています。解熱剤はインフルエンザの場合に使ってはいけない薬があるため、市販薬の安易な服用はお勧めしません。
高地に行かれる方はダイアモックスを処方してもらって下さい。私もペルーのクスコで高山病にかかりましたが、結構苦しいものです。高山病を予防するためには酸素消費を増やさないことが大事です。喜怒哀楽といった感情の起伏は脳の酸素消費量を増やすため避けてください。走ったり、大声で歌ったり、大食したり、暑い風呂に入ることも酸素消費量を増やすため避けましょう。要は高地では仙人になればよいのです。心穏やかに、じっと腰をすえ、霞だけを食べる心構えでいてください。
私は時差対策として機内に乗り込むとすぐ時計の時刻を到着地に合わせます。この時刻に自分は普段日本で何をしているかを考え、普段より多めに睡眠をとるつもりで体調を整えてください。場合によっては睡眠薬を使って眠くないのに寝てしまうのも手ですが、睡眠薬は国によって持ち込み禁止薬に指定されているものもあり注意が必要です(この場合も英文診断書に記載してもらっていれば情状酌量される可能性があります)。またエコノミーシートで筋弛緩作用のある薬を飲むと、筋緊張の取れた状態で座位を保つためにかえって寝苦しくなります。私の使用頻度が高いのはマイスリーですが、これを使えば誰でもいつでも大丈夫というものではありません。
短期間の旅行で数時間の時差であれば、日本時刻のまま行動してしまうのも手です。日本時間に合わせてハワイに行くときは現地で遅寝遅起、インドに行くときは早寝早起きをすれば最初から時差ぼけに苦しむ必要はありません。なお現地では普段より1時間以上多めに睡眠をとるように心がけてください。慣れない異国の地での観光は思った以上に疲れるものです。食事もつい食べ過ぎてしまうことがあるため、場合によっては1日2食にしても良いかもしれません。
暑いところに行かれる方は、出発前に最寄りのコンビニでコンソメスープの素を買っていくと良いでしょう。暑いところでは発汗過多で塩分不足になりやすく、そんな時にコンソメスープの素をかじりながらミネラルウォーターを飲めば多少はしのげます。手に入りやすいこと、保存が利くこと、税関などで外人にも説明しやすいこと、塩分量が多いことがコンソメスープの素をお勧めする理由です。
最後に医療費の問題ですが、日本出発前に十分な海外旅行保険に入るか、ゴールドカードの複数枚持ちをお勧めします。治療費の上限額は各カードの合算が可能とのことですが、いつ制度が変わるかもしれないので各自で確認してください。家族で行かれる方は「ゴールドカード 家族特約」で調べてみてください。500万円ほど保障枠があればまず大丈夫だと思いますが、アメリカで子供の耳に虫が入り、救急外来から耳鼻科医、麻酔科医など大勢の医師を呼び出して対応したら1000万円請求されたという噂話を聞いたことがありますので、万全というのは難しいかもしれません。
以上、日本中の旅行医学認定医の中でもかなり旅行慣れしていると自負する毎留の実践的旅行医学講座でした。総論的な話はここまでにして、次回からは実際の旅行ネタをお伝えしていきたいと思います。週末は今月の渡航地である台北に行ってきます。
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