人工知能は電気内科医の夢を見るか?:The 旅行道:So-netブログ
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人工知能は電気内科医の夢を見るか? [雑談]

先日、当院の名誉院長と雑談していて「内科医の仕事は人工知能で置換できるか?」という話題になったので、私の考えをまとめてみました。
結論から言えば、「現在のディープラーニングの延長ではノー」です。

人工知能と人間の頭脳は根本的に進化の系統が違う別物です。
人工知能は「常にルールが変わらないという制約の中で最大限の能力を発揮するもの」であり、人間の頭脳は「ルールが毎回変わる、もしくは初めてでルールが分からない状況で、比較的まともな働きをするもの」です。
常にルールが変わらないボードゲームでは、すでに人間は人工知能に勝てなくなっています。しかしこれが毎回、飛車と角行と金将と銀将の動き方のルールが変わる将棋だったらどうでしょう?
人工知能がどれだけディープラーニングを行い、最上のデータベースを蓄積していたとしても、ルールが変わった直後であれば藤井四段に勝てるとは思えません。人間では考えられない凡ミスをしてゲームエンドでしょう。
それと同様に、毎回細かなルールが変わってくるのが医療現場です。同じ疾患、同じ症状であっても患者個人個人で訴えの程度や表現は変わってきますし、その価値観も違います。
どうしても手術は嫌だ。治るなら積極的に手術を考える。たとえ植物状態でも長生きしてほしい。そんな状態になったら苦しまずに早く逝きたい。独り身だ。介護に熱心な家族がいる。
医者が扱う症例のすべて、患者ひとりひとりが数値化の難しい独自ルールを抱えているのです。
現在のCPUは、機構の複雑さで言えば人間の脳と同程度です。それなら本来、両者の処理速度は対等であり、人間にも1秒間に1億回以上の計算ができても良さそうなものですが、そんなことはありえません。
これはなぜでしょうか?
私は、人間の脳が99%以上無駄に働いているからだと思っています。
ここで簡単な実験をしましょう。まず、ひらがなの「あ」という文字を白紙に書いてください。あなたはそれを「あ」という文字だと認識せずに眺めていることができますか?
多くの人は勝手に頭の中に「あ」という音が浮かんでくるはずです。つまり「あ」という映像を見るだけで脳が勝手に「あ」という文字だと認識し、それに対応する「あ」という音をメモリーから呼び出す処理をバックグラウンドで始めるのです。
この時、人間の脳は無意識のうちに「あ」という文字が「い」でも「う」でも「え」でも「お」でもないという確認までおこなっています。だから頭の中に「あ」以外の音が浮かんでこないのです。
現在の人工知能は、この「一見無駄そうに見える関係ない処理」を一切行っていません。将棋の人工知能は最適手の計算だけにすべての処理能力を注ぎこみ、今日の昼食のメニューについて処理速度を割くことはしないでしょう。
この差が、私が最初に述べた「根本的に進化の系統が違う別物」という結論に結び付くのです。
いくつか実例を挙げてみます。

将棋に、はさみ将棋のルールを加えた新しいゲームについて考えてみます。基本的に将棋と同じで相手の王将を取れば勝ちですが、同時に自分の駒で相手の駒をはさめばそれを取ることができます。
私がこのゲームを思いついたのは、将棋について考えている最中、はさみ将棋という別のゲームを連想したからです。しかし現在のディープラーニングの手法を用いただけの人工知能では、この着想は不可能でしょう。

私は弟と二人兄弟で、子供が一人います。私が子供の頃、「父・母・私・弟」という家族構成の中で、私は母から「お兄ちゃん」と呼ばれていました。
私が子供を実家に連れて行くと、今でも母は私のことを「お兄ちゃん」と口走ります。子供にとって私は「父」であり、母にとって私は「息子」です。どこにも「兄」の要素はありません。
頭の良い人がこの場面に出くわしたら、家族構成の中で一番若い人を起点にして呼び名を決めていること、私には弟か妹がいて母がかつての家族構成を引きずっていることに気づくでしょう。しかし人工知能がこの仮説、推論を行うことはありません。これ一つとっても、今の人工知能は患者家族と会話するには完全な役不足です。

話が長くなりましたが、人間は普段から関係ないことまで考えている(一見無駄な処理をしている)生き物だからこそ、初めての場面に出くわしても別の事例を引っ張ってきて類推し、何とか対応できるのです。人工知能が最も苦手とする状況でもありますが、医療現場ではこれが頻回に起こります。
そのかわりルールが変わらないという制約の中では、人間は人工知能にかないません。
医療現場では人間と人工知能は補完的な関係になると思います。写真の中から猫を見つける、胸部X-pから初期の肺がんを見つけるというタスクであれば、ルールが変わらないので人工知能に軍配が上がるでしょう。実際の症状から診断を見つけ出すという作業も、基本的にルール変更はありません。しかしそれを踏まえて個々の患者にどう説明し、どう対応するかという話になると、現在の人工知能はまったく使い物になりません。治療ガイドラインの一部変更にも、かなり混乱をきたすでしょう。
人工知能は人間の医師の能力を補完するパワースーツにはなるでしょうが、医師を排斥する完全自立型のロボットにはなりえないというのが私の意見です。
あなたの仕事も、ルール変更が頻回にあるか、人対人のコミュニケーションが絶対的に必要か、の2点で考えてみれば、人工知能に置き換え可能か想像がつくと思います。
現在の人工知能にはどこまで進化しても越えられない壁があります。この現状を打破するには別のブレイクスルーが必要ですが、それについてはたまたま昔の記事でその青写真に触れていたので紹介しておきます。6年前にたまたま思いついただけなので、ディープラーニングのような思考の厚みに関する考察がまったくありませんが、ご容赦ください。

一番じゃなきゃダメです
http://ryokodo.blog.so-net.ne.jp/2011-07-09


それともう一つ、シンギュラリティについても述べておきたいと思います。これは、人工知能が人間の能力を超えることで、人工知能による自律的で飛躍的な技術進歩が生じるという技術的特異点です。
私はこれも当分先だと思っています。
私が子供の頃、科学者の過半数は一世代後に自動車が空を飛んでいると予想していたそうです。しかし実際にはご存知の通り、空を飛んでいません。
オスプレイとドローンが空を飛んでいるので、その中間サイズの乗り物を作り、個人が操縦すれば空飛ぶ自動車の完成です。でも近所のおじさんやおばさんがそれを操縦して、あなたの家の上空を飛んでいったら嫌ですよね?
また私が生まれる以前、アポロ11号が月に着陸しましたが、最近はだれも月に行っていません。
どちらも技術的には可能ですが、諸事情でやっていないだけと思われます。
このように科学技術が進むと「やろうと思えばできるけど、あえてわざわざやらないこと」が増えてきます。
昔見たUFOの番組で、ビートたけしが「ほかの天体からやってくる宇宙人のくせに自分の手で物をつかむなんて原始的すぎる」と意見を述べていたことがありますが、これがまさにその好例です。
現代の人類も宇宙に行くだけの科学技術を持っていますが、その一員である私はいまだに紙に書かれた回覧板を隣の家まで自分の足で歩いて届けに行っています。隣の家に回覧板を届けるロボットを作る必要性に迫られれば、すぐにでもできそうなものですが、誰もわざわざそんなことはしません。きっと手で物をつかむ宇宙人も同じ心情でしょう。
世界的な人工知能の権威であるレイ・カーツワイルは、その著書「シンギュラリティは近い」の中で、人間が自分の脳と人工知能をリンクさせ進化のスピードを飛躍的に早めるという未来図を予想していましたが、それが始まるべき今年になってもそんな兆候はどこにもありません。
だって脳と人工知能をリンクさせようと思ったら、麻酔を弱くして、ある程度意識がある中で接続状況を確認しながら頭に異物を埋め込まないといけないので、痛いですよ。
感染症を引き起こして脳に障害が残るかもしれませんよ。
庶民が牛丼を食べる値段でできる手術ではありませんよ。
もし仮に現状でそのような技術が可能だとしても、それが普及するとは到底思えません。
加えて言えば、銀河鉄道999のように人間の脳を機械の体と接続しても、脳に老人班やレビー小体が出現し、海馬が委縮し、脳自体の老化が進んでいくのですから、永遠の命は得られません。サイボーグも80年生きれば、クルマのアクセルとブレーキを踏み間違えるくらいに認知機能が低下してきます。
レイ・カーツワイルは「やろうと思えばできるけど、あえてわざわざやらないこと」というマージンと「人間の脳を機械と接続すること」の現実を無視して、そのような未来図を描いていたように思います。
そして人間の脳と人工知能の特性の違いを無視して、ただカタログスペックだけで両者を比較していました。
しかし人工知能が人間の頭脳と同じように一見無駄そうに見える無関係なことにまで多大な処理速度を割き、その上で人間の脳をシミュレートしてそれを超えるには、現在のCPUではまったく処理能力が足りません。
「この人、人工知能並みに無駄な思考ができない人だな」と感じていたので、ここで吐露します。
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